月別: 2020年6月

 

Sound Canvas

RolandのDTM(デスクトップミュージック)音源SoundCanvasシリーズ。私自身ゲームの音楽を製作するようになってから、使い始めましたが、前回の投稿のようにQXシリーズのようなシーケンサを使っていた私にとって、彼らの製作の仕方に当時強いショックを受けました。


SC-88pro(上)とSC-88(下)

カモンミュージックのレコンポーサというシーケンサを使い、ミュージックキーボードを使わず、パソコンのキーボードだけで、テキストエディタを使うが如く音符入力そしてコピペ、MIDIコントロールチェンジのみならず、GS音源固有のパラメータ(レゾナンス、フィルタ等)を操作し、プリセット音源をシーケンサ上でエディット。(それまでの私の常識的には音源のエディットは、音源のパラメータでやるものでした。) これにはメリットがあってリアルタイムで変化させることができることと、シーケンスデータに音色データも含められる(システムエクスクルシーブデータとはまた違う考え方)のでデータ互換が取りやすくなるということです。
またこのレコンポーサというシーケンサがこういったことがやりやすいつくりになっていました。(ブリブロの段階なので特にこの環境でなくてもいいのですが、私がいた環境はこれでした。ここからゲーム機に落とし込むときに時間をかけてデータを最適化していきます。ですのでMIDIのリアルタイムレコーディングのような容量が大きくなるようなスタイルは避ける傾向はあります。)
また特に楽器ができるという人たちでもなく、デザイナだとかゲームが好き、ということで曲を作っていて、耳コピ能力(音程だけでなく音色も)が異常に高かったです。コード進行とか知らなくても多数の音楽を聴いているので、その中のパターンを組み合わせてつくることでクォリティの高い音楽を作っていました。まるで絵を描くごとく、まさにサウンドキャンバスというに相応しい製作スタイルでした。

前回の投稿と同様、また過去のデータを整理する一環として、このDTM環境をセットアップしてみました。これまでの持っていたPC-9801やEPSON互換機はことごとく起動しなくなり、最後に残ったPC9821でしたが、液晶画面が変色してしまっていました。(奇しくもSCカラー。こんな壊れ方するんだ・・) ハードディスクはカタッ、コトッという鈍い音を時々発していて、いつ逝ってしまうかという状況でしたが、幸運にも外部モニタ、RS232CのMIDIの接続、レコンポーサ起動も無事できました。

データは20数年前のもので、とても懐かしいものばかりでした。データ救済の意味とレコンポーサの画面も記録しておきたかったので、まとめて動画にしました。
(あるイベントのBGM用に作った曲、SC88Proの新規音源を聴いて作りたくなった曲、たぶんボツになったゲームの曲、作った記憶がない曲などなど)

「自由は不自由や」by ジョージ富士川

NHK朝ドラ「スカーレット」のシーンでのフレーズですが、これは言い得ていると思います。

つまり「不自由は自由」。制限のある環境の中の方がそれを解決するためいろいろと想像力を働かせる必要があり、自由にものを考えられる環境にあります。当時のゲーム機で言えばメモリ、CPUなど低いスペックでも工夫によって高いクォリティのものを作れることを数々目のあたりにしてきました。
サウンド関係で言えば、歌を歌わすことはなかなか困難でしたが、比較的余裕のあるメインメモリからサウンドメモリにサンプリングした歌の部分だけストリーミングしながらBGMと同期させて歌わせたことがあります。

たった一曲のためにこんな面倒なことを、と思いますが、当時こういったことをみんなが面白がってやらせてくれました。
しかしSEGA StaturnやPlayStationの時代になって、音楽CDをBGMとして鳴らせるようになってからは、制約がなくなり、ゲーム音楽という独自のジャンみたいなものがだんだんと薄れていった気がします。(なんでも自由にできると言われると逆に考えに窮するみたいなことがあります。)
同時発音数、容量などの制限があったからこそゲームならではの音楽が創造された、とも言えると思います。(私が参入したのはスーバーファミコンの後期ですが、このエッセンスをかろうじて味わうことができた世代になります)

DTMも音源数に制限がある環境と言えます。(基本的にサンプリング機能なし) Sound Canvasシリーズでの曲作りは、独自の世界がつくられ、大いにもりあがりました。
今で言えば、ボーカロイドのコミニュニティはこれに近いのかもしれません。実は私もこれに挑戦しようとしたことがありましたが、購入直前になって、「あっ、そういえば詩、かけないや」と気づき断念しました。その後、山手線の駅名をひらすら言うだけの曲をボーカロイドで聴いたとき、「この自由は自分にはなかった・・」と自覚しました。

Sound Canvas というのは、多くの人がその上で共通言語(共通音色のバレット)をもってコミュニケーションをとってきたプラットホームです。熟練者には有限である環境の中で差別性を出すため、独特の作り込み感というか、音の密度みたいなものがあるように思います。過去の曲を聴いてみて、このプラットホームならではの曲作りに、結局追いつけていないと感じました。
自分にとってのプラットホームとは・・また、曲を作りたくなったきました。

SC-155

MIDI Communication

BEAT-C

新型コロナの影響で、バンドのライブも弦楽器教室の発表会も中止になり、楽器の練習をするというモチベーションが下がり気味の今日このごろです。
やはり人前で演奏する機会というのは貴重なことなんだと改めて感じました。

その反動か昔やっていた打ち込みの音楽をやってみたくなり、当時の機材のセットアップをしました。
いつか昔の音源を整理して再現しようと思っていましたが、これがなかなか大変な作業なので手が付けられずにいました。GS,GM,XGといった規格の音源なら比較的簡単なのですが、メーカが違う複数のハードウェア音源、サンプリング音源、シーケンスデータ、サンプリングデータ、MIDIチャンネルを曲ごとに思い出しながら組み合わせる必要があります。またデータがフロッピーディスクという媒体に保存されているため古いデータはエラーで読み出せないものもあります。
その中でもシーケンサがYAMAHA QX3、音源がRoland D-110、YAMAHA TG-33は比較的多数の曲を作った組み合わせで、再現がうまくいきました。


その中の曲でノリがいいものをただ鳴らすだけでは面白くないので、一度録音をしてからDJミキサー(PIONEER DDJ-S1)でリミックスしてみました。

DJミキサーは、当時とあるイベントで音楽をノンストップに鳴らす際に購入したものです。ただクロスフェードで曲を切り替えるだけでなく、あらかじめかける音楽の構成や聞かせどころを研究してテンポを合わせてあたかも同じ曲のように自分好みにつなげる面白さは、自分にとって新鮮なものでした。

(スクラッチのようなパーカッシブに音を鳴らすDJにも憧れましたが、やはりこれはアナログターンテーブルとお気に入りのアナログレコードが必要で、一朝一夕にはいかないとわかり諦めました。)

今回のこのセッティングは、私がゲーム音楽の仕事をする前までのスタイルで、この後、GS音源SoundCanvasシリーズで制作するスタイルに変わりました。シーケンサはコンピュータを使うようになりPC-98(MS-DOS)のレコンポーサ、そしてMac(GUI)のStudio VisionといったDAWに変遷していきます。
ここで思うのはQX3で作るような音楽をPCのシーケンサやDAWではたしてできたかどうか。
ツールとの関係性が制作結果にも大きく影響を与えることを経験しました。
QX3の特徴を一つ言うならば、曲が思いついてから形になるまでが速い、です。

タイトルはコロナを打ち負かす意味もこめて”BEAT-C”です。

Kei Twovela · BEAT – C