IOWN / NTT
離れた場所で通信を使った音楽のセッションは、古くから多くの人がさまざまのアイディアを試してきました。
まさに夢の技術とされてきたものが、NTTのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の低遅延通信により実用段階に入ってきました。(動画では東京大阪間往復16ミリ秒(以下ms)という説明)
これについていろいろと推測しながら考えを整理していきたいと思います。
技術の進歩とともに帯域が広くなったことで送れるデータは多くなりましたが、物理現象として今も昔もケーブルを伝わるデータに遅延があるのは同じです。これ以外の遅延の原因は、データ圧縮・解凍によるバッファや、中継器のバッファ、通信を安定化させるためのマージンとしてのバッファが考えられます。(帯域が広くなることによるデータ圧縮の不要、光によるシンプルな中継器、安定したインフラ、これらによって遅延要素は減少)
時間軸で圧縮するようなエンコーダだと演算に必要なある程度幅のあるデータをバッファリングするため、これは実感できるのですが、中継器やインフラについてはあくまで推測です。
動画だと、実験でどのようなインフラを使ったのかわかりませんが、光ケーブルの専用回線ならかなり安定感はあるはずです。(IOWNのWがWirelessなのでこれは遅延要素だと思いますが・・)
物理現象としての遅延は、相対性理論から、最速でも、真空中における光速の値は 299792458 m/s(約30万 km/s)で、これを下回ることはできません。
東京大阪間は直線距離で400km、新幹線のような経路では500kmとなり、
500/300000 = 0.0001666..
往復で約0.33msとなります。
地球一周だと、40075kmで
40075/300000 = 0.1334833..
約133msとなります。
120BPMで16分音符が125msですが、これより少し長いです。
今回16msの遅れということで、波形ソフトで16msずらしたBassDrumとHiHatの音をならしましたが、気にならないレベルでした。
※ジャスト、16ms、30ms、60ms のズレを7回ずつ再生しています。
(どこまで許容できるでしょうか・・楽器によりかなり感じ方が変わりそうです)
さずかにドラムの音の32分音符のズレ(120BPMで62.5ms)は気になりますが、30msくらいまでは問題ないレベルだと思います。
また映像で言えば、60fpsで1フレームが約16msになります。同時の次のフレームには間に合っているということですから全く問題ないです。
ここまで画像や音声のエンコードの時間は入っていませんが、現在のプロセッサで並列処理をしてしまえば極限まで速くできることは想像できます。特に画像は並列処理がしやすいのでいくらでも帯域が許されるかぎり高画質にできるます。
ただ、地球規模では、遅延の少ない演奏は難しいといえます。
しかしモニターするのをエコーバックのみに音声にしてしまえば、133msの遅延は半分になり遅延の気にならない演奏ができそうです。イメージとしてはMIDI音源をながいMIDIケーブルを使って演奏したときの遅れみたいな感じです。聴こえ音が遅れるので演奏する人もそれを計算してはやめに演奏します。このあたりの慣れは脳が補正しています。(ドラムパッドのMIDIアウトでサンプラーを鳴らすときの遅れも同様)
MIDIの転送レートは31.25kbpsでシリアル通信なので、同時に10個の鍵盤を押しても順番に信号が送信されるため同時には届きません。これが帯域が狭いほど遅れる原因になります。帯域と遅延の話は、MIDIに例えるとわかりやすいかもしれません。
31250*(16/1000) = 500
16msで500bitつまり62.5byte。1音につきチャンネル、ノート、ペロシティの3バイトなので、16msで約21 音処理できます。
単純に言えば2人の鍵盤奏者が同時に1つのキーボードを10本の指でノートオンした場合(連弾のイメージ)、最初の音と最後の音では16msずれることになります。
アナログシンセ(CV-Gate)のレスポンスが速く感じるのは、データでなく電圧制御だからでしょう。(ケーブル内を電子が移動するから?押し出す感じ?)
動画で、16msの遅れを3mくらい離れた人に音がとどく時間とありますが、これは厳には音速は15℃で340m/sですので、5.44mになります。
「Sound Lag」
こちらの投稿で音の遅れについて書きましたが、野外での演奏を考えれば、34mで0.1秒くらい平気なので、気にしなくても良いレベルかもしれませんね。
最近はzoomやteamsなどを使ったオンライン会議が盛んになってきたため、リモートで会話する機会が増えました。会話レベルならいいのですが、まだ音を合わせるほどには至っていません。しかし音楽教室などの一方的な演奏であれば、音質などの面で実用レベルにきています。最近GoogleMeet(遅延は比較的少ないと感じている)で打ち合わせのような音合わせをしましたが、コミュニケーションが問題なくできるレベルでした。PCよりもスマホとそのアプリの方がカメラ・マイク、通信デバイスのバランスが良い(と私は思っている)ため遅延が少ないと感じました。ちなみに遅延は往復で500msくらいでした。
テンポの遅い曲で、ピアノ伴奏+弦楽器だったら、100msくらいでもできる気がしますので、もう一息といった感じでしょうか。。
いずれにしろ、遠隔での演奏がどんどん当たり前になってくると、また新たな音楽の楽しみが増えることは間違いなさそうです。
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